バンコクで罪の館の話をするなど

バンコクで罪の館の話をするなど

バンコク二日目はここに住む女性に街を案内してもらったり、かつてブルックリンで活動していたアーティストで、バンコクに移住した人たちと会ったり。移住組の二人は90年代ブルックリン界隈でがんばっていた人たちで、入れ墨系。ご飯を食べて、スタジオでハングアウトするうちに、一人がかつて働いていたクラブThe Limelightの’話題になった。とても懐かしい。懐かしいと言っても、私がアメリカにきた96年には休業中だったし、ニューヨークに移った1998年には再開してはいたが、最盛期とは違うものになってしまっていたので、一番いい時期は体感していない。

その話題をしているうちに、youtubeでドキュメンタリーを見よう、ということになった。オーナーのピーター・ゲイティエンの娘が作ったというドキュメンタリー。インサイダーに近い人なだけに、主要人物がたくさんでてきて当時を語る。そしてドラッグが蔓延していた時代に、政府がゲイティエンをターゲットにし続ける様子が克明に描かれている。小説か、と思うようなことがたくさん起きる。知らないことがたくさんあったよ。ひとつ言えるのは、この頃のクラブカルチャーがなかったら、ニューヨークの文化はきっとまったく違うものになっていただろうということ。そもそも教会をクラブにしちゃうなんて、今だったら許されなそうな話だ。

夜半すぎ、タクシーを呼んで帰ろうと思ったら、パスポートを持っていないのに気がついた。夜になると検問がいたるところに設置される街である。パスポート、ホテルの部屋に置いてきちゃったけど大丈夫だよねえ? って聞いてみると、「うーん、たぶん大丈夫だと思うけれど」とみんな頼りない。なんせパスポートを持たずに歩くのは違法なのである。そこからみなさんの「警察に理由なく止められた」ホラー・ストーリーのオンパレード。とはいえ、帰らないわけにもいかないので「寄り道せずにホテルに直行しろ」とか「検問で懐中電灯を照らされたら堂々としてろ」などというアドバイスを胸にタクシーで帰った。そして何もなく無事にホテルに着いた。

ホラー・ストーリーの最中に「そんな面倒くさい街によく住むね?」というと、やつらから「ニューヨークだってそうじゃんか」という返事が返ってきた。確かにそういうこともなくはない。が、途中で気がついた。確かに90年代はそういうことが多々あったのだ。そして彼らはとにかく目立つのである。全身に入ったスミとアーティスト然とした風貌ののおかげで。タッツ、命がけだな。

備忘録:崇拝の館から罪の館へーライムライトの歴史(Curbed)