Yumiko Sakuma

Weekly Sakumag Sample 06.21.2020

Yumiko Sakuma
Weekly Sakumag Sample 06.21.2020

LGBTQの職業差別を禁じる最高裁判決

学生時代の性的暴行疑惑を押し切ってトランプ大統領が任命したブレット・キャバノーが最高裁判事になった時点で、アメリカの最高裁のパワーバランスが5対4で保守に傾いていたはずが、今週は、保守派をショックの谷に陥れる判決が2つ出た。

ひとつめは、最高裁が6月15日に下した、セクシュアリティや性認識を理由に、企業が従業員を差別することを違憲とする判断。

1996年の連邦最高裁判決(ローマーvsエヴァンス)は、ゲイの市民から権利を取り上げることを違法とした一方で、いまだにLGBTQの雇用を守る法律はない29州では、セクシュアリティを理由に解雇される従業員がまだ存在していて、今回の裁判は、セクシュアリティまたは性認識を公表したあとに解雇された3人の市民が原告だった。(過去のアメリカのLGBTQ関連ランドマーク判決まとめ

今回の判決が画期的なのは、原告3人のひとりが、トランスジェンダーだったことだ。男性として育てられ、5歳のときから自分の性認識は女性だったにもかかわらず、家族を持ち、アイデンティティの分裂に苦しんだ挙げ句に、カムアウトして女性として生きる道を選んだエイミー・スティーブンスさんは、何年も悩んだ挙げ句、職場の葬儀場に、女性として生きることを決断したことを伝える手紙を書き、その直後に解雇された。スティーブンスさんは、残念なことに、今回の結審を見届けることなく、つい最近、病気で亡くなった。けれど、職場差別が違憲だという判断が下ったときのために、ステートメントを残していた。

I am thankful that the court said my transgender siblings and I have a place in our laws -- it made me feel safer and more included in society.

このsafer、more included、という言葉に、涙腺が崩壊した。社会に含まれていない、と感じながら生きている人たちがいるのだ。


保守派最高裁の終焉?

この判決がサプライズだったのは、ロバーツ裁判長を含む6人の判事が「職場差別は違憲」という立場を取り、6対3で、リベラルの意見が勝ったことだ。サプライズは、主文を書いたゴーサッチ判事が、リベラル側についたことである。保守派は、このサプライズに大変にご立腹である。「保守派最高裁の終焉」などという言葉が飛び交った。

この判決が何を意味するかというと、これからスポーツから米軍まで、あらゆる世界で、性差別がチャレンジされることになる、ということだ。これは、クリスチャン右派からすると、大変な痛手である。


移民法をめぐる争い

その数日後、最高裁は、トランプ政権が進めていたDACAの終了を阻止する判断を下した。子供時代にアメリカに連れてこられた不法移民の子供たち(ドリーマーと呼ばれる)を救済するためにオバマ時代に採用された移民救済プログラムDACAの終了は、トランプ大統領の公約のひとつだった。ただこの判断は、トランプ政権と司法省が、プログラム終了を正当化するだけの理由を提示しなかった、というもので、ドリーマーを代表する原告は、DACA終了を違憲だと主張したが、こちらの主張は認められなかったため、トランプ大統領は、再び終了を目指す手続きをすすめる意向を示している。

ちなみに、トランプ大統領が、この数日以内に、テック関係の労働者や特殊技能者のための労働ビザ、H1Bプログラムの停止を発表すると報じられている。これから不況がやってくるのに備えて、アメリカ人労働者を守るため、また支持層にアピールするための措置だと思われるが、ビジネス、特にテック業界、また在米日本人就労者にも大きく影響を及ぼしそうである。


今週のBLM:資本主義はレイシズムでできている

BLM2020年バージョンが進行しているからこそ、新しく見える世界がある。今、できつつあるナレティブにはいくつもの線があるが、そのひとつは「資本主義は人種差別でできている」という考え方だ。ニコラス・レマンがこれをテーマにニューヨーカーに寄稿している。

差別、というと、特定の人種を下に見たり、特定の人種の権利が、マジョリティの権利より小さいことだけかといえば、そうではない。たとえば、ある大企業の役員の顔ぶれを見に行ったときに、白人男性しかいない、ということがよくある。白人の男性たちが牛耳っているのだから、それ以外の人間も、白人男性が決めたルールに従わなければならない。少なくとも今までの世の中はそうやって動いてきたのだった。

アクティビストたちの間では、さらに一歩進んで、「資本主義は白人至上主義である」というナレティブも登場している。白人至上主義というと、これまで、白い三角帽をかぶっているKKKや極右団体を想像する人が多かっただろう。けれど、トップを白人が占領している世界は、実は、白人優等主義に基づいている。だから、資本主義は、白人至上主義の形のひとつである、という考え方である。



コロナ時代のサステナビリティとレイシズム

Business of Fashionは初めて開催したProfessional Summitを受講した。

今、ポストコロナ時代のサステナビリティを考えることが急務になっているファッション業界でも、レイシズムを考慮せずにサステナビリティを語ることはできない、という空気が広がりつつある。ファッション業界は、経済格差の上に立っている。そして、そのシステムの中には、レイシズムと人種格差が内包されているのだ。サミットでも、レイシズムや南北格差、労働問題が大きなテーマになっていた。コロナウィルスの登場によって、サステナビリティのための努力は加速するしかない、かつてのように、消費者が大量の服を買う時代は終わったのだ、という空気感が大勢だ。ひとりのパネリストが言った「変革は、あなたが参加してもしなくても起きます」という言葉が印象的だった。ついに、ファッション業界が、リアルな会話をし始めたのだ、という気がしている。


Juneteenth


6月19日はJuneteenthだった。ニューヨークでは大規模のマーチが行われ、各地でもお祝いやデモが行われる様子がソーシャルに流れてきた。奴隷の解放や自由を象徴するイベントとはいえ、奴隷の解放や自由を象徴するこの日がこれだけ盛り上がるのは、現代史上初めてのことだろう。

日本との意識のギャップにおののく日々ではあるが、日本語でも、早速ジューンティーンスを説明するコンテンツが出ていて、ちょっぴり心強い気持ちになった。

ジューンティーンスは、奴隷だった黒人が自由になった歴史事実を祝う日だけれど、それまで、白人の所有物だった黒人たちが、急に荒野に放たれて、それで苦労が終わったかというともちろんそうではなくて、コミュニティを一から築かなければならなかったうえに、南部では人種分離政策が始まって、医療や教育を受けられないなどの差別、警察による暴力や抑圧に遭った。奴隷を解放してくれたはずの「自由な北部」を目指して移動した黒人たちは、ハウジングプロジェクトに押し込められ、やっぱり差別や抑圧に遭った。

今、400年前にアメリカにつれて来られた黒人たちが「もう嫌だ」となっている理由がいまひとつわからない、と感じる人にはぜひ見てほしいドキュメンタリー<13th>がNetflixにあるのでぜひ観てほしい。 



日本の歴史教育

タイムラインに、舞台俳優さんのツイートが流れてきた。どうやら、新規のグループ名をkkkにする、という意のツイートをして、ちょっとした騒ぎになったようだ。知らなかった人を責める気はないので、ここには貼らないが、KKKの歴史を学んだあとのツイートに入っていた、このフレーズにはっとした。

こんな重たい言葉が世界的にあるとは知りませんでした。

KKKは、単なる言葉ではない。公民権時代には、多数の黒人や白人アクティビストたちをリンチにしたり、絞首殺害したり、散々大暴れし、今も、白人優等主義を信じ、非合法の活動を続けているテロリストたちだ。

KKKを知らない人がいる、ということに衝撃を受けたけれど、よくよく考えたら、自分だって、学校では教わらなかった。中学の英語の教科書には、マルチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の「I have a dream」演説が載っていた。世界史の教科書には、公民権運動のことは書いてあったけれど、ジム・クロウ法の廃止とともに、黒人は、白人と同じ権利を受け取って、人種問題は解決したようなトーンだった。

建前上は、何人も同じ権利が保障されていることになっている。キング牧師の日が、国民の祝日に指定されている。ところが、一方で、たくさんの黒人の命が、権力の手によって殺されてきたのだ。そして、KKKは非合法の組織ではあるけれど、今も活動しているし、白人至上主義は、トランプ大統領のおかげで、支持を拡大している。

今、歴史の教科書に書いてあることは、白人たちが作ったアメリカが用意したストーリーラインだったのだということがわかる。白人たちが書いたストーリーを受け入れた日本人が書いたテキストを私たちは受け入れてきたのだ。

私たちが生きている世界は、白人たちが支配している、ということは先日も書いた。ならば、非白人である日本人も、この世界に存在する白人優等主義というものを知るべきだと思う。



自分のアメリカ史

このところ、自分がアメリカに暮らしてきた22年をひたすら振り返っている。

私が初めてアメリカ大陸に足を踏み入れる前年の1992年、ロス暴動が起きた。ロドニー・キングさんという黒人男性が、警官たちにボコボコにリンチされる様子を、当時、登場したばかりだったビデオカメラで撮った映像がテレビに流れたことで騒ぎになり、警官たちが逮捕されたが、結局無罪判決を受けたことで起きた暴動だ。

その6年後、私は大学院に進学するためにアメリカにきた。イエール大学のあったニューヘイブンは、アフリカから奴隷船が到着した港町のひとつである。街の片側には瀟洒な住宅街が広がっており、反対側は貧しいエリアだった。白人エリート学校であるイエール大学は、街で最大の雇用主であり、その2年の間に労働争議が起きていた。イエール大学が、地元のコミュニティを大切にしているようにはまったく思えなかった。路上では、日常的に警察が黒人をハラスしているのを見た。奴隷制は終わっていないのだと思った。

ちなみに、大学院在学中に、奴隷船が到着した頃のニューヘイブンを舞台にした映画<AMISTAD>が公開された。その翌年には、ネオナチのスキンヘッドを主役にした映画<Amerian HIstory X>が公開された。

振り返って見れば、クリントン時代の人種関係は比較的良好だった。刑務所が私営化されて、再び黒人のディスフランチャイズメント(権利剥奪)が始まったのは、アンチ・クリントンの右派が強くなってからのような気がする。


そして気になるパンデミック

BLMのプロテストによるコロナウィルスの感染拡大が心配されていたが、ムーブメントの起点になったミネアポリスでは、デモ参加者による感染は抑えられているようだ。参加者たちの大半がマスクを着用していたこと、会場が屋外だったことが効いたようだ。(WIRED

アリゾナ、テキサス。フロリダなどの保守州で感染者数が急増していることで、アメリカ国内全体の感染者数が、5月1日時点の数字まで戻ってしまった。(CNBC

こちらも感染者数が増えているオクラホマ州タルサで、トランプ大統領が、州政府関係者や医療関係者の反対を押し切って集会を開いたが、会場の半分も埋まらなかった。(BBC